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研 究 内 容

研究室で取り組んでいる研究の内容を説明します。

ポリペプチドのヘリックス−コイル転移と会合挙動(Inomata group)

温度応答性高分子に関する研究(Inomata group)

形状記憶能を有する高分子材料の開発(Inomata group)

ポリペプチド液晶ゲルの形状変化(Inomata group)

炭素繊維複合材料の形状回復の高速化/強靭化(Inomata group)

構造色エラストマー(Inomata group)

添加剤を用いたガラス状高分子の力学物性制御(Nobukawa group)

光異性化を利用した高分子フィルムの強靭化と光機能性付与(Nobukawa group)




ポリペプチド鎖のヘリックス−コイル転移と会合挙動

 アミノ酸の重合体であるポリペプチドの中には、外部環境に応じて、分子鎖の形態を大きく変化させるものがあります。非イオン性の水溶性ポリペプチドであるポリ[N5-(2-ヒドロキシエチル) L-グルタミン](PHEG)では、溶媒として水を用いた場合、柔軟なランダムコイル状の高分子として振る舞いますが、アルコール系の溶媒に溶かしますと、棒状のα-ヘリックス構造を形成します。このような分子鎖形態変化を利用して、高分子凝集体の構造を制御することができるのではないか、という発想の元、研究を進めています。具体的には、

(1) ポリペプチド鎖が会合体コアを形成する場合

 
会合体コア中で高分子濃度が高い場合には、分子鎖充填様式はその形態によって変化するはずです。例えば剛直なヘリックス構造である場合、コア中のPHEG分子鎖はお互いが平行になるようにパッキングされると考えられます。このような充填様式の変化を反映して、会合体全体の構造が変化することを見出しています。

(2) 溶媒に可溶なポリペプチド鎖が会合コアを結ぶ場合

 
PHEG鎖の両末端に会合性の疎水基を持つ場合、PHEG鎖がランダムコイル状態である場合は、両端の疎水基が同じ会合コアに含まれることも、また異なる会合コアに含まれることも、可能です。前者の場合、PHEG鎖はループコンホメーションを取りますが、後者ではブリッジコンホメーションとなります。一方、PHEG鎖がヘリックス構造の場合には、その剛直性のために両端の疎水基は異なる会合コアに含まれざるを得ず、PHEG鎖はブリッジのみを取りえます。

 希薄溶液中で考えると、PHEG鎖がループのみであれば孤立した花形の会合体ミセルが形成されますし、ブリッジのみであれば多くの会合コアを含むようなミクロゲル状の巨大会合体が得られることが考えられます。また濃厚溶液系では、前者の場合はゾル状のミセル溶液ですが、後者の場合には系全体に網目構造が広がったゲル状態となるはずです。

 
以上のように、分子鎖の形態変化が起こるPHEGを用いて、会合点間を結ぶ分子鎖のループ・ブリッジの制御を行うことで、会合体の形状変化あるいはゾル−ゲル転移が起きるような系について、研究を行っています。

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温度応答性高分子に関する研究

 
温度変化に応じて溶解性が急激に変化する温度応答性の高分子は、その特性を利用してセンサー材料などへの応用が期待されています。このような高分子を成分鎖とするブロック共重合体やグラフト共重合体では、温度変化に伴い温度応答性鎖の溶解性が変化するため、溶液中での会合挙動をコントロールできると考えられます。


 下に示した2-クロロエチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体は、一般の有機溶媒中、沸点以下の温和な条件下で下限臨界共溶温度型の相分離挙動を示す、非常に珍しい系であることを見出しています。

 一方、上の章では、溶媒変化によりヘリックス−コイル転移を示すポリペプチドについて説明しましたが、温度変化に応答してヘリックス−コイル転移を示すポリペプチドを用いれば、ポリペプチドの会合挙動の制御に有用な成分鎖として利用することが出来ます。このような観点から、温度変化に応答して振る舞いが変化する高分子に関する研究を行っています。


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形状記憶能を有する高分子材料の開発

 
温度による固化(ガラス化、結晶化)−軟化が可逆的に起き、その転移温度が室温以上である場合、その高分子に架橋構造を与えることで、形状記憶特性を持たせることができます。すなわち、架橋によりパーマネントな形状を付与した後、軟化状態で変形させて一時的な形状としてから転移温度以下(例えば室温)に冷却することで、変形エネルギーを蓄えたまま一時的な形状に固定化することができます。この高分子を再び転移温度以上に昇温して軟化させると、蓄えられていた弾性エネルギーにより、パーマネントな形状に自発的に回復します。以上が、形状記憶高分子の形状記憶メカニズムです。

 
よく知られているように、直鎖状の高分子を枝分かれ構造を導入すると、分子鎖同士のからみあいが解消されにくくなり、流動状態になるまでの緩和時間が増大します。この現象を利用することで、解消されにくいからみあい点を擬似的架橋点とみなすことができるような温度・時間域では、高分子材料に形状記憶能という特性を付与できると考えられます。

 
以上のような観点から、ポリメタクリル酸メチルとポリエチレングリコールからなるグラフト共重合体、あるいは枝分かれポリメタクリル酸メチルなどの試料について、その分子構造特性と形状記憶能との関係について、研究を行っています。


 
また、結晶化による固化−軟化を示す系として、上記の水溶性ポリペプチドであるPHEGを用いたハイドロゲルに結晶性鎖を導入した、形状記憶ポリペプチドゲルの調製を行っています。

 
形状を記憶する性質を持つ高分子と、形状を固定する性質を持つ高分子とをブレンドすることで、新規な形状記憶高分子材料を調製することも可能です。下には、室温でゴム弾性を示すポリウレタンエラストマーと、結晶性ポリオキシエチレンとのブレンド試料が示す形状記憶挙動を示しています。


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ポリペプチド液晶ゲルの形状変化

 
α-ヘリックス構造の剛直なポリペプチドは、濃厚溶液中で分子鎖が平行に配列したリオトロピック液晶状態となります。この液晶溶液を磁場中に静置し、棒状ポリペプチド鎖が一軸的に配向した状態で化学架橋を行うことで、一軸配向ポリペプチド液晶ゲルを得ることができます。このゲルの膨潤溶媒を変化させ、ヘリックス構造のポリペプチドをランダムコイルに転移させると、一軸配向方向には収縮し、それと垂直方向には膨潤する、異方的な形状変化を起こすことを見出しました。この現象は、分子レベルでのヘリックス−コイル転移という分子形状の変化により、それが架橋されたゲルの架橋構造が変形し、その結果、分子形状変化に対応するようなゲル全体の形状変化が起きたものと考えています。



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炭素繊維複合材料の形状回復の高速化/強靭化

 
高分子をベースとした形状記憶材料は、柔軟性があるため大きな変形を加えることができる一方で、固体状態(ガラス状態など)の弾性率が低く、形状回復速度が遅いという欠点があります。その欠点を補うため、炭素繊維と複合させたところ、エポキシ樹脂単体よりも炭素繊維複合材料(CFRP)の方が形状回復速度が向上することが明らかとなりました。条件にもよりますが、20秒で形状回復する結果も得られています。

  CFRPは剛性が高い(10 GPa以上)一方で、大きな曲げを加えられません。マトリックスをエラストマーにすることで、曲げに強くなり、アルミニウム並みの引き裂き強度を持つことが可能です。  



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構造色エラストマー

 
均一サイズの高分子微粒子が集積したコロイド結晶は、可視光波長オーダーの周期構造に由来する構造色を呈します。コロイド結晶を重合性モノマーで膨潤させ、架橋剤とともに重合させることで、コロイド結晶複合化フィルムを調製できます。フィルムのガラス転移温度が低ければ、この複合フィルムはゴム弾性を示すエラストマーとして振る舞います。下図に示すように、フィルムの延伸によりコロイド結晶の構造色は、低波長側の色へ可逆的に変化することが分かります。この波長の変化が、フィルムの厚さの変化と比例関係にあることから、フィルムの延伸によりコロイド粒子も相似的に変形していることが示唆されます。このような歪応答性コロイド結晶エラストマーは、歪や応力の変化をモニターできるセンサーなどの応用が考えられます。



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添加剤を用いたガラス状高分子の力学物性制御

 ポリカーボネート(PC)は耐衝撃性に優れますが、剛性が低いという課題があります。この課題に対しては、低分子添加法が有効な手段の1つとして挙げられます。低分子化合物を添加することで、PCの剛性を2GPa → 2.6GPa程度に向上することが可能です。本現象は「逆可塑化」と呼ばれ、低分子がPCの自由体積を低下させ、局所運動を抑制することが要因と考えられています。  



 我々は動力学測定(力学緩和測定)と誘電緩和測定を組み合わせることでPCと低分子の運動を独立に評価し、それらの相関を評価しました。その結果、逆可塑化現象には、低分子の長軸の回転運動が強く関係することがわかりました。この長軸の回転が停止する場合に自由体積が低下し、PC鎖の局所運動が抑制された結果、弾性率が向上(逆可塑化)します。
 

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光異性化を利用した高分子フィルムの強靭化と光機能性付与

 我々は、アゾベンゼンのような光(紫外光/可視光)により異性化する分子を利用し、高分子フィルムの熱特性や力学強度の制御光機能性の付与について研究しています。  

<熱特性・力学強度の制御>
 高分子材料のガラス転移温度(Tg)や弾性率などの熱特性や力学特性は、分子運動と密接な関係があります。分子運動性が高いほど、Tgや弾性率は低下することが知られています。
 我々は、ポリカーボネート(PC)にアゾベンゼンを5wt%添加し、紫外光を照射したところ、Tgやヤング率が低下することを見出しました。アゾベンゼンは紫外光の照射でtrans体(棒状)からcis体(球状)に異性化し、可視光の照射や加熱によりcis体からtrans体に逆異性化します。すなわち、高温(100℃以上)下での紫外光照射では、trans→cis→trans→・・・という大きな構造変化を伴う異性化が繰り返し生じることがわかります。実際に、この繰り返しの時定数を調べますと、室温では1000秒以上の遅い異性化時間が、高温になると数十秒に短縮されるという結果が得られています。この高速の繰り返し異性化によりPC鎖の運動が加速され、Tgの低下やヤング率の低下が生じたと結論付けています。(光可塑化)

 本現象を応用し大幅なTgの低下が達成できれば、室温下での光接着や光溶融成形も可能になると期待されます。

※1分子の異性化反応はfsec(フェムト秒)のタイムスケールで生じますが、測定した時定数は材料全体のアゾベンゼンの異性化を分率で追跡したものになります



<光異性化を利用した脆性‐延性転移>
 高分子材料の破壊は、脆性破壊と延性破壊に分類されます。前者はクレーズ形成により生じ、降伏前の小さなひずみで破壊に至ります。後者はせん断降伏により生じ、比較的大きなひずみまで破壊しません。一般的に、曲げに強く強靭な材料を設計するには、後者のせん断降伏変形が選択される必要があります。
 ポリメタクリル酸メチル(PMMA)は脆性高分子ガラスの代表例であり、脆性を改善するため様々な研究例が報告されています。我々は、アゾベンゼンをPMMAに添加し、紫外光を照射しながら引張試験を行ったところ、脆性から延性に転移することを見出しました。(ただし、紫外光の照射を止めると脆性のまま。)この脆性−延性転移現象は、アゾベンゼンの異性化反応にともなう膨張力がPMMA側鎖の運動性を向上させ、脆性−延性転移温度が低温にシフトしたためと考えています。
 


<光異性化を利用した複屈折の可逆制御>
 PMMAやPCなどの透明な高分子材料は光学用途に広く用いられています。例えば、ディスプレイなどの光学機器の一部である偏光子や波長板などの光学素子にも利用されています。さらに、複屈折(屈折率差)は偏光状態を精密に制御する重要な光学特性となっています。通常、高分子フィルムを延伸することで分子鎖を配向させ、複屈折を発現させています。また複屈折値は温度や延伸比、延伸方法により調整しますが、一旦フィルムを調製すると、複屈折の再調整はできません。
 一般に、低分子化合物は高分子鎖と配向相関(ネマチック相互作用)することで、高分子鎖に沿った方向に配向します。この配向相関は分子サイズと関連することがこれまでに判明しており、剛直性が高い(分子サイズが大きい)ほど、配向相関は強くなります。この特性を踏まえ、我々はアゾベンゼンの異性化に伴う構造変化を利用すれば、フィルム調整後でも紫外光/可視光により複屈折のON/OFFが達成できると考えました。
 試料にはセルロースエステル(結晶性の低い透明樹脂)を用い、アゾベンゼンを添加した延伸フィルムの紫外光/可視光での複屈折変化を調べました。その結果、trans→cisの異性化で複屈折が低下し、cis→transの逆異性化で再び複屈折が回復することが示されました。この可逆的な複屈折変化は少なくとも10回以上可能であることが判明しています。この光複屈折制御技術により、フィルム成形後でも複屈折の調節が可能となります。(ただし、アゾベンゼンを用いているため着色の課題が残されています。)
 

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